宮崎滔天とあの俳優さんとの意外な繋がり（NHKファミリーヒストリーで紹介されました）

「革命(かくめい)の志士(しし)」の家庭(かてい)事情(じじょう)

　宮崎(みやざき)滔天(とうてん)といえば、世界(せかい)革命(かくめい)、その第一歩(だいいっぽ)としての中国(ちゅうごく)革命(かくめい)に生涯(しょうがい)を捧げ(ささげ)た人物(じんぶつ)であり、孫文(そんぶん)も自伝(じでん)で高く(たかく)評価(ひょうか)した人物(じんぶつ)。
しかし、その生活(せいかつ)はといえば、「革命(かくめい)のための金(きん)は出来る(できる)けれども、妻子(さいし)を養う(やしなう)金(きん)は出来(でき)ない」として、兄(あに)・民蔵(たみぞう)から財産(ざいさん)分与(ぶんよ)された先祖(せんぞ)伝来(でんらい)の土地(とち)も、次々(つぎつぎ)と革命(かくめい)のためのお金(おかね)となって消え(きえ)ていきました。
　革命(かくめい)運動(うんどう)のため滔天(とうてん)は東京(とうきょう)で生活(せいかつ)するようになり、1905年(ねん)には妻(つま)の槌(つち)、息子(むすこ)の龍介(りゅうすけ)・震(しん)作(さく)も上京(じょうきょう)。しかし当然(とうぜん)、家族(かぞく)の生活(せいかつ)は厳しい(きびしい)ものでした。滔天(とうてん)家(か)に定期(ていき)的(てき)な収入(しゅうにゅう)は無い(ない)のです。槌(つち)は内職(ないしょく)をして家庭(かてい)を支え(ささえ)、そして夫(おっと)の革命(かくめい)運動(うんどう)のため、家(いえ)に出入り(でいり)する中国人(ちゅうごくじん)革命(かくめい)家(か)たちのもてなしもしました。

「革命(かくめい)の志士(しし)」も世間(せけん)一般(いっぱん)からすれば要注意(ようちゅうい)人物(じんぶつ)

　そんな中国人(ちゅうごくじん)革命(かくめい)家(か)の梁山泊(りょうざんぱく)ともいう様相(ようそう)を呈し(ていし)た宮崎家(みやざきけ)には警察(けいさつ)の監視(かんし)が…。清(きよし)王朝(おうちょう)は孫文(そんぶん)をはじめとする中国人(ちゅうごくじん)革命(かくめい)家(か)の日本(にっぽん)での活動(かつどう)に警戒(けいかい)しており、彼ら(かれら)の活動(かつどう)を制限(せいげん)するよう日本(にっぽん)政府(せいふ)に求め(もとめ)ていたのです。警察(けいさつ)の人々(ひとびと)は、滔天(とうてん)の生活(せいかつ)の厳し(きびし)さを知っ(しっ)て、「月々(つきづき)○○円(えん)の金(きん)をやるから」と中国人(ちゅうごくじん)革命(かくめい)家(か)たちの情報(じょうほう)を売る(うる)よう滔天(とうてん)に持ちかける(もちかける)こともあったほど。
　しかしそんな中(なか)で一人(ひとり)、困窮(こんきゅう)する宮崎家(みやざきけ)に親身(しんみ)になってくれた刑事(けいじ)がいました。槌(つち)が語っ(かたっ)た「亡夫滔天(とうてん)回顧(かいこ)録(ろく)」にその一節(いっせつ)が出(で)てきています。

　「孫(まご)さんが原町(はるまち)の家(いえ)に来ら(きたら)れてから、小石川(こいしかわ)の富(とみ)坂(ざか)署(しょ)からよく来る(くる)高等(こうとう)刑事(けいじ)は北村(きたむら)利吉(としきち)という人(ひと)でしたが、しまいには私(わたし)共(ども)の貧乏(びんぼう)を見兼ね(みかね)て、来る(くる)時(とき)にはいつでも土産(みやげ)に茶(ちゃ)の袋(ふくろ)を提げ(さげ)て来(き)ました。私(わたし)共(ども)の家(いえ)には客(きゃく)が来(き)ても出す(だす)茶(ちゃ)がなかったのです。」

　（『亡夫滔天(とうてん)回顧(かいこ)録(ろく)」『宮崎(みやざき)滔天(とうてん)全集(ぜんしゅう)　第(だい)五(ご)巻(かん)』515頁(ぺーじ)）

「亡夫滔天回顧録」515頁.jpg

「革命(かくめい)の志士(しし)」を支え(ささえ)苦労(くろう)する妻(つま)と、一(いち)人(にん)の刑事(けいじ)のちょっと心温まる(こころあたたまる)お話(おはなし)

　刑事(けいじ)の名前(なまえ)は、北村(きたむら)利吉(としきち)。当時(とうじ)滔天(とうてん)が住ん(すん)でいた小(しょう)石川原(いしかわら)町(まち)（現(げん)白山(はくさん)）を所管(しょかん)する富(とみ)坂(ざか)警察(けいさつ)署(しょ)の特別(とくべつ)高等(こうとう)警察(けいさつ)でした。余程(よほど)その気遣い(きづかい)が身(み)に沁み(しみ)たのでしょうか、このことを槌(つち)は後(ご)に短歌(たんか)にもしています。

　北村(きたむら)警察(けいさつ)吏　茶(ちゃ)もなき我(わが)等(とう)を見(み)て　帰り道(かえりみち)に買っ(かっ)て　送り(おくり)付(づけ)たり、めつらき(（ママ）)しんせつの警官(けいかん)、永く(ながく)其後もたへすおとつれたるなり

　おりからに　知ら(しら)ぬおみなの　とひにけり　茶菓(ちゃか)に見(み)へたる　探偵(たんてい)(おんみつ)の心(こころ)ざし

　実は(じつは)この北村(きたむら)利吉(としきち)さん、俳優(はいゆう)の北村(きたむら)和夫(かずお)さんの祖父(そふ)であり、そして同じく(おなじく)俳優(はいゆう)である北村(きたむら)有(ゆう)起(おこし)哉さんの曽(そ)祖父(そふ)なのです。北村(きたむら)和夫(かずお)さんといえば、滔天(とうてん)の浪花節(なにわぶし)語り(かたり)時代(じだい)を劇化(げきか)した「夢(ゆめ)　桃中軒牛右衛門(とうちゅうけんうしえもん)」（脚本(きゃくほん)宮本(みやもと)研(けん)氏(し)）で滔天(とうてん)を演じ(えんじ)たお方(おかた)。当時(とうじ)のパンフレットの中(なか)で、北村(きたむら)和夫(かずお)さんは祖父(そふ)の利吉(としきち)さんが劇(げき)に登場(とうじょう)することに触れ(ふれ)て「滔天(とうてん)をやることになるとは思わ(おもわ)なかったんで、因縁(いんねん)といえば因縁(いんねん)だけど、ほんとはぼくが北村(きたむら)高等(こうとう)刑事(けいじ)をやればとかったんじゃないかな。」と語ら(かたら)れています。
　そしてこの度(たび)、NHKの番組(ばんぐみ)「ファミリーヒストリー」で北村(きたむら)有(ゆう)起(おこし)哉さんが登場(とうじょう)されることになり、その家族(かぞく)の歴史(れきし)として、槌(つち)と利吉(としきち)さんとの交流(こうりゅう)の一幕(ひとまく)が紹介(しょうかい)されました。職務(しょくむ)を果たす(はたす)一方(いっぽう)、一(いち)人(にん)の人間(にんげん)として、利吉(としきち)さんが滔天(とうてん)家(か)にかけてくれた思いやり(おもいやり)。こうした様々(さまざま)な人々(ひとびと)の想い(おもい)や支え(ささえ)があって、滔天(とうてん)は革命(かくめい)運動(うんどう)に邁進(まいしん)することができたのでした。